キスの意味を知った日




「あ! そういえば櫻井さんが進めていた新規の病院も通りました」

「あの大口の病院?」

「はい、先日正式に契約に行ってきました」

「そうか、やったな!」


そう言って、嬉しそうに笑う櫻井さん。

――…へぇ、こんな顔もするんだ。

なんだか蚊帳の外な気がして、楽しそうに話す2人を無言で見つめていると。


「そろそろ行くか」


突然、腕時計に目を落としてそう言った櫻井さん。

その声に合わせて、梨恵と2人椅子から立ち上がった。


だけどその瞬間、目の前が一瞬にして真っ白になる。

慌てて椅子の背もたれを掴んで、視界が元に戻るのを待つ。


やば……眩暈がする。

本格的にヤバイな。


そんな私を見て、大丈夫か。と言う櫻井さん。

そして、顔を覗き込んできて。


「薬は」


と、まるで父親の様に言葉を落とした。


相変わらず、お節介な人。

飲みました。と言うと、よし。と言って、また腕時計に目を落としてスタスタと会場に入って行った。
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