キスの意味を知った日
会場内の人が少なくなったのを確認して、ゆっくりと立ち上がる。
このダルさは異常だ。
持っている書類も少しなのに、異常に重く感じる。
すると、そんな私の考えを読むように、貸せ。と言われて強引に書類を奪われた。
いつもなら、大丈夫です! って奪い返してた所だけど、如何せん緊急事態だ。
なりふりかまってられない。
なんとかエレベーターに乗って、目的の階のボタンを押す。
私が倒れそうなのを、いつでも支えられるようにとすぐ私の側にいる櫻井さん。
だけど、いい大人がこんな所で倒れるわけにはいかない。
最後の気合だ。
微かな振動と共にエレベーターの扉が開いて、のろのろと足を前に出す。
見慣れた通路を歩いて、部屋まで向かう。
ふかふかの絨毯が今は恨めしい。
足を取られて歩き辛い。
そんな事を思っていた矢先、パンプスが絨毯に取られてバランスを崩した。
あ、と思った瞬間には、グラリと世界が歪む。
制御不能の体は、いとも簡単に崩れた。
―――…あぁ、あと少しで部屋だったのに。
そう思った瞬間、世界は真っ黒に塗り潰された。