キスの意味を知った日


「お前といると脳が活性化されるな」


ボソっとそう言う櫻井さん。

苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「どうも……」


それはこっちのセリフだ。

この地獄のような展開、全く笑えない。


思い返せば、一ヶ月前ぐらいに隣の部屋がガタガタいってたっけ。

今まで空き部屋だったみたいだから、引っ越してきたんだって思ってたのを思い出した。


それが、まさか櫻井さんだったとは。

事実は小説よりも奇なり。とはよく言ったものだ。


驚きすぎて今の現状を忘れていた私は、そそくさと部屋に入ろうとして我に返る。

そして、慌てて櫻井さんに向かって頭を下げた。


「あの……この3日間ご迷惑をおかけしました」


危ない、危ない。

うっかりお礼を言うのを忘れる所だった。


同じように部屋に入ろうとする櫻井さんの背中に向かって、もう一度頭を下げる。

すると、ドアノブに手をかけていた櫻井さんが視線だけこちらに向けた。
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