キスの意味を知った日

「実際、終電に間に合わない事もよくあるから、タクシー代を払うのと同じくらいだろ。月極も」


そう言われて、納得した。

彼もだいたい遅くまで働いている。

終電に間に合わずにタクシーを毎回使うよりも、月極を借りた方がもしかしたら賢いのかもしれない。


「確かに、そうかもしれませんね」


そう言って、コクンと頷く。

すると、だろ。と言ってまた煙草をふかしながら不敵に笑った櫻井さん。

その姿は、完全オフの彼の姿だった。


初めて会った時がオフの時だったから、さほど違和感は感じないけど、やっぱりなんだか新鮮。

仕事場では相変わらずロボットのように働いているけど、今はどこか人間らしい。

合理的なのは、仕事もプライベートも変わらないようだけど――。

そう思っていると。


「あ~腹減ったな」


信号待ちで、ダルそうにそう言いいだした彼。

ハンドルに体を預けて、大きく息を吐いた。
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