キスの意味を知った日
まるで子供みたいなその姿に思わず笑ってしまいそうになる。
そして、特に深く考えずに口を開いた。
「作り置きのシチューならありますけど、食べに来ます?」
何気なく言った一言だけど、言ってから我に返った。
おいおいおいおい。
何、自分から部屋に招き入れてるんだよ私。
オフな感じの櫻井さんを見て、一瞬彼が上司である事が頭から吹っ飛んでいた。
しどろもどろになりながらも、言い訳の言葉が口から落ちてこない。
ただ視線だけ泳がせて、瞬きを繰り返す。
すると。
「それはマズイだろ」
そう言って、苦笑いを浮かべた櫻井さんは再びハンドルを握った。
結局、コンビニ寄っていい? と言う彼に、どうぞ。と言うのが精一杯だった。