キスの意味を知った日
道沿いにあったコンビニに入って、待ってて。と言われて車の中で待機する。
何かいる? と聞かれたけど、首を横に振った。
スタスタとコンビニに入っていく櫻井さんの後姿を見つめる。
1度プライベートをお互い見てしまえば、こんなにもフランクに上司と接する事ができるものなのだろうか。
そんな事を思っていると、ふと運転席の横に置いてある煙草に目がいく。
見慣れたメーカーの煙草に、一瞬胸の奥がキュッと縮んだ気がした。
その感情をもった自分に腹が立って、衝動的に櫻井さんが吸ったまま灰皿に置いていった煙草を手に取り銜えた。
ゴホッ。
結果。
久しぶりに吸った煙草にむせてしまった。
「病み上がりに、煙草はしんどいだろ」
ゴホゴホとむせている私を見て運転席に入ってきた櫻井さん。
「止めとけ」
そう言って、私の指に挟まっていた煙草を抜き取る。
そして、そのまま灰皿に押し付けられた煙草をじっと見つめた。
「吸ってたんだっけ?」
「吸ってたけど、止めました。すいません。勝手に」
灰皿から目を離して、小さく頭を下げてそう言った後、窓の外に視線を逃がす。
すると、一瞬黙った櫻井さんだけど。
「男からしたら、女は吸わない方がいいからな」
そう言った。
――勘のいい男は嫌い。