キスの意味を知った日
見慣れた道を走り出した車の中、思い出したように口を開く。
「そういえば、総務課に新しい人入ったみたいですね」
「あぁ、関西支社にいた奴だ」
「そうなんですか? 美人でしたね」
「自分もたいして変わらないだろ」
そう言われ、思わず飲んでいた水を吹き出しそうになった。
サラッと驚く事を言われた。
でも当の本人は全く深い意味はないのか、変わらず煙草をふかしている。
恋愛に興味のない私でも、やっぱり戸籍上は一応女だ。
男の人にそんな事を言われて、ドキドキしないわけがない。
でも、悔しいから何とも思ってないフリをする。
時々、この人が何を考えているのか分からなくなる。
優しいと思えば、素っ気無くなって。
ドキっとする言葉を言ったかと思ったら、全く興味のない顔をして。
どれが本当の『櫻井駆』なのか分からない。
――まぁ、本当の彼の姿を知った所で、どうでもいいんだけど。