地方見聞録~人魚伝説譚~
声を潜めたリンが続けた。
「人さらいと同じく、人魚も捕らえられてるって」
「そんな!」
人さらいはともかく、人魚までも。
人魚は珍しいゆえに高く売れるという。
「あまり見たことないけど……すごく綺麗だったのよね」
「向こうにいた時だっけ」
「うん。でももうぼんやりしててうまく思い出せないや」
リン手作りの饅頭を頬張りながら、私はその寂しげな笑みを見た。
目の前には海―――――こんな広い海の中に、人魚は住んでいる。リンの話は信じていた。けれど……。ずっと"昔話"のように語られ、見たこともない人魚が、本当にいるのかどうか、私は複雑だった。
* * *