地方見聞録~人魚伝説譚~
助けたのは良いが、どうしたらいいのか。
小屋の扉をあける。
「――――動くな」
それは真横から聞こえた。
衣服を抱えたまま、私は動きを止める。
「お前は誰だ」
喉元に突き付けられたナイフ。小屋にあったものかと思いつつ、「レト」と名乗る。
男はまだ動かない。強張る体のまま私は続ける。
嵐のこと。難破したであろう船のこと。そして今、村の人がその船の生存者を探していること――――。
喉元にナイフをつきつけられた状態で話すというのは怖い。声はふるえる。衣服を抱える腕にも力が入る。