地方見聞録~人魚伝説譚~
男は黙って聞いていたが、やがてナイフをおろした。ほっとした私は腰が抜けたように床に座り込み、息を吐く。
怖かった。
力が入らずに散らばる衣服を拾おうとする私の前に、男は片膝をついた。
「悪かった。その、助けてくれたというのに」
まっすぐこちらを見て謝る男。
見る度に本当に美しい顔だと思う。これで男だというのだから、女である私は己の見た目に悩む。
どうやら随分見つめていたようで、男に「顔に穴があきそうだ」と言われ、はってした。
聞きたいことはいろいろとある。が――――――。
「あ、の」
「名乗るのが遅れたが、ヨウだ」
ヨウ、と名乗った人魚は少々表情を和らげてそういった。
* * *