地方見聞録~人魚伝説譚~
「ヨウ? 」
あまり大声は出せない。小声で呼んでみる。
岩場には掛けるようにして置かれた、昼間ヨウが着ていた服があった。
その近くで私は立ち、月がうつる海面を見た。
もう一度呼ぼう。
そう口を開きかけた。
月光。
海面を照らす光を破るようにして、それは姿を見せた。
背は海面に向けて反る。
息をするのも忘れた。
―――――ヨウだ。
白磁のような肌。闇色の髪。そして下半身の尾鰭。