地方見聞録~人魚伝説譚~
「レト」
海面から顔を出したヨウの声。呆然としていた私に「レト?」ともう一度声をかける。
ゆっくりとこちらに近づき、岩に腕を伸ばす。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃない」
「……どこか具合でも悪くなったか?」
「そうじゃなくて、その」
悪いどころか、どきどきした。
エノヒ様から聞く昔話の中でしか姿を見せず、想像上のものとなってしまった"人魚"を目の前で見たのだ。
興奮しないはずがない。