地方見聞録~人魚伝説譚~
ばしゃり、とヨウの尾鰭が動くたび、これもわざとだろう。私に水しぶきがかかる。
反撃したくても私にはなにもない。
「そろそろ戻った方がいい」
空を見上げたヨウが静かにそう言った。
ウルドやエノヒが知っているとはいえ、あまり長居は良くない。
「じゃ、先に戻るよ」
立ち上がって数歩進んだあと、ヨウに呼ばれた。振り返る私に、彼は目を細める。
「私を助けたのが、レトで良かった」
そういうとヨウは水中に消えた。
残された私は、何ともいえないむず痒さと恥ずかしさを抱えたまま、足早に村へと戻った。
* * *