地方見聞録~人魚伝説譚~
「大丈夫」
「本当?」
「本当」
まだ不安げな顔であったが、小さく頷き、子供たちの輪へ入っていく。
思えば長い滞在だった。
"船の生き残り"とはいえ、怪我などもしていなかったのだから、怪しむ者もいた。それをエノヒが「帰る故郷がない」と言ったのだ。
帰る故郷がない。独り身などはめずらしくない。リンがこの村にひきとられたのとおなじように、彼もまた……と納得できる理由でもあった。
それにヨウははじめの頃こそ冷たそうに見えていたが、彼は子供たちの面倒をよく見るし、海などにでて不在な男たちのかわりに力仕事もやっていた。
だから「この村に住んでしまえ」と言われるようになった。
あっという間だった。