地方見聞録~人魚伝説譚~
どうしてそんなことを。
そう言おうとした。ここまで"人さらい"にあってきたというのに。
私は首に下げた珠玉を掴んだ。
海へ入る前、ヨウは私を抱きしめた。力強く。思いがけないことが重なった私は、何も言えず固まっていた。
そのとき、ヨウは言ったのだ。
必ず戻る、と。
「レト」
不意に名を呼ばれてみると、そこにはセインがいた。
「父さんから聞いた」
どうやらウルドが己の息子であるセインとオルハに、ヨウのことを話したらしい。
そっか、と私は返す。