地方見聞録~人魚伝説譚~
私はひっそり家を出て、小屋のある海辺へ向かった。砂浜をすすみ、ふと立ち止まる。
海はおだやかだった。月は雲によって隠れてしまっているためか、あたりは暗い。護身用の短剣を持ったが、早く帰るべきだろう。
足早に海へと出て、首から下げられた珠玉を握った。いつもの岩場へと来て、足早が不安定であるものの、苦ではなかった。
その場でしゃがみ込む。
両手で首飾りとした珠玉を包むようにした。願うのは無事。私は海のことはわからない。だからこそ――――。
「無事で」
"帰ってきて"
口に出すのは躊躇われた。
彼は人魚なのだ―――。
* * *