地方見聞録~人魚伝説譚~
――――ツイてる。
密かに監視していた女が、急に家から出てきたのだ。
どこに行くのかとヘズは眠りかけていたブラギをたたき起こし、追い掛けた。
あの女が、ヘズたちが捕らえていた男の人魚と一緒にいたのはわかっていた。ヘズもブラギも、その人魚の顔ははっきりと見ている。
あれだけの美貌なら忘れるのは難しい。
しかし……その人魚が姿を消した。
あの女が知っているだろう。ヘズは考えていた。
人魚を捕らえるのはまだよしとして、問題は村に伝わる宝玉だ。
村の長のもとにあり、簡単には手が出せない。ならば―――。あの人魚と親しげにしていた女をさらい、人魚をとらえた方がいい。危険は少なくて済む。