地方見聞録~人魚伝説譚~
ブラギと分かれたヘズは、薬液を布に染み込ませる。
殴ってもいいが"商品"に傷つけるのは価値が下がりかねない。
見たところ、美人とはいえない。だがそこそこで売れるだろうし、己の目に狂いがなければ、この女を人質にすればあの人魚は動くだろう。
女はしゃがみ込んでいた。何してんだ?と思ったが、すでに奥にはブラギがいる。
計算上間違いなければ今日か明日には――――。
ヘズが「待て」とブラギに片手をあげた時だ。
静かな夜の空気を裂くような音がしたのは。鐘の音だった。
「ようやく来たか」