地方見聞録~人魚伝説譚~
6章
―――向こうにはハレンがいる。
何度も己に言い聞かせる。
何かあった時のために。そう己の友人に頼んであったが、不安は拭い去れぬままでいた。
しかも目の前にいる長がわざわざ近くまで来ているのは予想外だった。ここはレトと村がある、人魚のいない土地に最も近い場所である。
顔の知る者もいくつかいる中、どこから話すか迷った。
「あの村を守る力が弱まっている」
己やハレン達の長であるオーズが先に口を開いた。その内容に言葉を失う。
「お前があの村の者に救われたのも何かの縁。己の知ることを話せ」
己の言葉が変える、か。
人間と人魚。今回私が"人さらい"にあったことで、仲間の中では人間への不信か出ているだろう。
己だってそうだった。さほど付き合いがなければ興味もない。それを変えたのはレトだった。
ありのままを話した。