Fairy And Rose



自分の顔を両手で覆えば、涙で手が濡れる。


目頭が熱い。
涙が止まらない。





フリージアは泣き崩れ、アトールにしがみついた。

まだ温かいそれが、愛しくて愛しくて仕方がない。





「アトール、ごめんなさい…大好きよ」












「…フリー…ジア?」

「!」




アトールの手が、フリージアの涙をはらった。
冷たくなり始めていた手が、優しく頬に触れたのだ。





「…アトール、嘘…なんで」






───生気は、余す事なく全て吸い切ったはずだった。

それなのに、アトールは今
動いて、喋って、私に触れている。







「なんで、生きて……」


「…泣かないで。
僕も、君が大好きだよフリージア」





───ガシャン



虚像の仮面が音を立てて落ちる。

粉々になって落ちた仮面の裏側は、もう黒い何かではない。

黒い何かのその下に元々あった
フリージアそのもの…本心が露わになった。






「───君が、はじめてだったんだ。
ここに居ていいって言ってくれたのも、こうやって…僕の為に泣いてくれたのも。
…だから」




フリージアの目から、より一層涙が溢れ出す。
それは、はじめての心からの涙。





「だから、僕は…ここに居たい。
フリージアの側に…ずっと。
いても、いい?」


「……っ」





───なんで生きているのとか
白蛇の化身だとか

そんな事はもうどうでも良かった。


だって私は、その言葉を
ずっとずっと、待ちわびていたから。

誰かが、そう言ってくれるのを待っていたから。





「…フリージア?」


「──アトール、お願い。もう一度…
もう一度だけ、言って」


「…うん。
僕は、フリージアが好き。
ずっと側にいたい」




アトールは起き上がってフリージアを抱きしめる。

優しく、優しく。愛おしそうに。




「だから、お願い。
ずっと側にいる事を許して」

「…っ、うん」








この日から妖精、フリージアは

独りぼっちの妖精ではなくなった。





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