Fairy And Rose



「…うん、泣かないよ!
嬉しいもん」



アトールは満面の笑みでそう答える。

フリージアはそんな元気なアトールの姿を見ると、心が暖かくなった。



「…アトール、貴方といられて幸せだわ」





もう、黒い何かがフリージアに現れる事はないだろう。

何故なら、虚像の仮面はもうない。

アトールと心が通じ合ったフリージアが、黒い何かに負ける事はもうないのだ。







───だから、残り少ない時間を 貴方と。




自分が生きながらえる為に
誰かを…アトールを失うのは、もう嫌だった。

生気を吸う事をやめる覚悟は、とうに出来ている。

後に待ち受けるのは、生花となってこの黒い森に永遠と咲く花になる事。
それのみ。


たとえ、貴方ともう話す事が出来なくても。
たとえ、もう触れる事が出来なくても。


私は───…







「…」

「僕も幸せだよ、フリージア。
君が僕の全てだ」


アトールは無邪気にもフリージアの小さな頬に、その赤い唇を軽く付ける。


照れたようにはにかむアトールを
フリージアはただ愛おしく思った。





「…ずっと、一緒に…いたいわ」






───無理な願いとはわかっている。
しかし、願わずにはいられない自分がいる。

それが、悲しくて
どうしようもなくて

心が濡れた。



「…?
ずっと一緒だよ?」

「…ええ、そうね。
ずっと一緒よね」




ずっと一緒にいると約束した言葉を信じて疑わないアトールに、愛おしさが増す。

だけど、いつまでも一緒にはいられない。


儚い表情がそれを物語っていた。
しかし、アトールがそれに気づくわけもなかった。



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