Fairy And Rose
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何時迄も変わらぬ、美しすぎる容姿。
透き通るほどの白い肌と髪。
魔力の宿る赤い宝石のような目。
人の身ながら
その異を持つ稀な人間を
人は戒め、忌まわしんできたことを妖精は知っていた。
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妖精は人間をこの花畑に招く。
優しい虚像の仮面をかぶって
立ち止まっている人間の手をとれば、少しずつ花畑へと引いてゆく。
「ここには沢山の花が咲いているの。
百合、薔薇、ガーベラ…いろいろね。
気に入ってくれると嬉しいわ」
優しく美しい妖精は
表情を終始虚像の笑顔で固め、優しい声色を奏でる。
「自己紹介がまだだったわね。
私はフリージアの花の精。フリージアと呼んでね」
フリージアは人間の手を離し、ふわりと飛んだ。
フリージアの花が一つもないこの花畑を
フリージアはクルクルと踊るように飛び回る。
「貴方の名前は何かしら?」
「……名前は、ないんだ」
白蛇と忌み嫌われ、そう呼ばれ続けてきたこの少年に
名前などあるわけがなかった。
そんな事は、妖精にとって百も承知だった。
「そう…。では私が名前をあげるわ!」
妖精は人間の目の前までくると、その赤い目を覗き込む。
「綺麗な赤い目…まるで赤い薔薇のよう。
…そうね、アトール。アトールがいいわ!
赤い薔薇の名前からとったのよ、どうかしら?」
「……」
────ポタ
フリージアの言葉で
赤い目からは雫が溢れた。
「い、嫌だったのならごめんなさい…!
許して、お願い」
怒らないで。
悲しまないで。
嫌わないで。
独りはもう嫌…!
だから、そばに居て。
この花畑にいて。
フリージアはその小さな体全てで、そう訴えていた。
そんなフリージアに答えるように
人間は首をただただ横に振る。
「…ちがっ、違うんだ。嬉しいんだ。
ありがとう…フリージア」
「……!」
人間の少年はフリージアの小さな体を、その綺麗な白い手で優しく抱きしめた。
虚像の優しさが崩れ始める。
フリージアはゆっくりと人間の暖かな手に擦りついた。
この日から、白蛇の化身はアトールという人間になった。