Fairy And Rose
───昔、ただ一人で花畑にいた時は何も感じずに生きていた。
何故自分が未だここにいるのかを忘れ、いつから自分が独りでいるのかも忘れて
ただ毎日、何も感じる事が出来ないまま過ぎていく日々を
ただただ、ずっと繰り返していた。
しかし空っぽの日々が重なる度に、心は何かを求めてやまなかった。
───その何かを求めていた、ある時だ。
現れたのだ。
アトール…白蛇の化身が。
『災いを呼ぶと云われる白蛇の化身を、決してこの身に近づけてはいけない』
知識として有るこの言い伝えを無視してまで、孤独に耐えきれなかった自分はその存在を近くに置いた。
…独りでいる日々は、何も感じる事が許されない苦痛の時間でしかなかったのだ。
───しかし、それがどうだ。
誰かが側に居ただけで、わからなかった何かが確実に満たされていた。
幸福だった。
アトールという存在だけが、私の喜びだったのだ。
…それなのに、それなのに。
今、それが側にいない。
「私を置いて、何処かへ行ってしまったというの…?」
拳を握る手がワナワナと震える。
フリージアの心の奥底で眠っていた、黒いものがふつふつと湧き上がってきた。
優しさの虚像が崩れる
虚像の仮面に亀裂が走る。
その仮面の下の黒い素顔が、ひび割れた隙間からあらわになった。
「私は、生きるの。
馬鹿な皆とは違ってね…」
フリージアは黒い木々を掻き分け飛んで行った。