Fairy And Rose
黒いものがフリージアを支配する。
その黒い何かは、この黒い森そのもの。
黒い木々はフリージアをよけて道を作ってゆく。
その出来た道は、アトールと繋がる道標。
全ては黒い何かに導かれたレールのうえだった。
しかし、フリージアは黒い何かの思い通りとも知らないで飛び続ける。
心では独りぼっちになることを恐れて、怯えながら。
そんなフリージアに、黒い何かは力を注いだ。
力は体を膨れ上がらせ、心を蝕む。
ただひたすら黒い何かに従うフリージアの体は、人間と同じ大きさとなっていった。
力に比例して大きくなるその体は力に耐えきれず、フリージアの体を啄ばむ。
「…はぁ、はぁっ」
黒い力が体に溜まれば溜まるほど、苦しくて仕方ない。
まるで、気管に石でも詰められたかのように
心に靄をかけられたかのように、体を戒めた。
「…アトール、アトール!」
金切り声で叫ぶが、アトールの返事はない。
ただ声は黒い森に溶けた。
「…!」
黒い木々の一所に、日の光が射していた。
太陽が見える事のないこの森に、光が射すなんて事は今まではなかった。
なかったのに。
「……なんで?」
───白蛇の化身には、暗い所が似合わないとでもいうの?
永遠とこの黒い森にいる私とは、違って…?
黒い何かが、どっと身の内から溢れかえった。
仮面の亀裂が進行する。
虚像の仮面が、地へと欠け落ちた。