Sion
律花は『何でもない』と笑った。
「ただ、そんなに大切な人なんだなって思っただけ」
「…関係ない」
律花は肩をすくめた。
那由汰はこれ以上、自分の中を見せてはくれないだろう。
だけど、律花はこれだけははっきり言いたかった。
「あなたの想いが本物ならいいよ。けど…もし…もし違うなら…希愛を…これ以上傷つけないで。叶わない恋なんて…これ以上あの子を苦しませるなんて…
あたしは…見ていられない」
希愛は充分傷ついた。
沢山辛い思いをして、沢山泣いた。
もう…何年も希愛の心は止まったまま。
声が戻らない限り、希愛は前へ進めないのだ。
希愛が失った声は…希愛の心のそのもの。
爽への想いと自分を責める気持ち
乗り越えないと…ずっとこのままだろう。
律花はそうなって欲しくなかった。
たくさん傷ついた分、たくさん幸せになって欲しい。
それが律花の願いであり、爽の願いでもあると思っている。
希愛は…那由汰を想っている。
認めたくはないけど…それは事実だから。