Sion
嬉しかった、涙がでそうなほど。
それでも、前へ振り出せなかった。
自分のことなのに信じられなかった。
『でも…無理だよ…』
「希愛、無理って言ってる内は何もできないよ?そうしている間にまた、大切な
ものがいなくなってしまってもいいの?」
その言葉に希愛は爽のことを思い出す。
伝えたくて、どうしようもなかった。
胸の奥に仕舞おうとして、だけどできなかった。
伝えようとした日に爽は――。
あの日のことは今でも覚えている。
何度後悔しただろう。
ただ、爽の笑顔が今も瞳の奥に残っている。
もう…二度と繰り返したくない。
そう思って、過ごしてきたはずなのに…
今の希愛はまた同じようなことを繰り返そうとしている。
自分が気づかないうちにまた、傷をつけようとしている。
繰り返したくない。
だから、那由汰と距離をおこうとした。
でも、できなくて…傍にいることを選んだ。
傍にいると那由汰が約束してくれたから。
それを信じよう、と。