Sion
不審な目を向けられながらも人波を潜り、特別棟の前まで来た。
いつもの違うメロディーが辺りに流れていることに気づく。
那由汰が弾くピアノで間違いはないと思う。
だが、どこか違う。
いつもよりも悲しみを帯びているような気がした。
その音に気になりながらも、希愛は覚悟を決めて扉を押した。
何回も聞いた。
那由汰が弾くピアノの音は心を揺さぶった。
甘く切ないメロディー。
でも、心に響くものがあった。
だが、久しぶりに聞いたピアノはいつも聞いていたメロディーとは違った。
凄く不安定で悲しい、涙が止まらなくなりそうな…。
那由汰が弾いているとは思えない。
だけど確かに那由汰が弾いているのだ。
不思議に思いながら、希愛は音楽室へと足を近づける。
物陰に隠れてそっと中を伺った。
そこには夕日に照らされて、切ない表情を浮かべながらピアノを弾く那由汰の姿があった。