Sion
どうしてそんな表情をしているんだろう…。
その表情で誰を想っているんだろう…。
胸が締め付けられて、痛い。
苦しい、辛い。
泣きたい気分になる。
覚悟を決めたはずなのに、足が動かない。
那由汰が誰を想って、そんな表情を浮かべているのか気になった。
ふと頭に優愛が浮かぶ。
もしそれが本当だったら、ここにいる意味はないんじゃないのだろうか。
「……希愛?」
ピアノの音が止まり、静かな声が希愛の名を呼ぶ。
物陰から出ると、那由汰はじっと希愛を見ていた。
あっ…と出るはずのない声がでたいような気がした。
思わず、唇を押さえる。
そんなはずないのに。
でも、律花が言っていた言葉を思い出す。
『無理って言ってる内は何もできないよ?』