Sion
そのあとのことはよく覚えていない。
覚えているのは、那由汰の少し悲しいそうな表情と
とても温かい、那由汰に抱きしめられたぬくもり。
そして…
「…ごめん」
消えそうなほど小さな声だけ。
那由汰はそれ以上話そうとしなかった。
希愛は振られたかどうかも分からなかった。
ただ、那由汰はそっと
「……もう少しだけ待って」
と今度は力強く抱きしめた。
辛そうな那由汰は見たくなくて、希愛はこくこくと意味もよくわからずに必死に頷いた。