Sion
感謝の気持ち
その後、家に戻った希愛を律花は両手を広がて出迎えた。
ちゃんと伝えたことを話すと、律花は嬉しそうに微笑んだ。
「良かった、希愛の声が戻って」
「心配…かけてゴメンね?」
久しぶりに出た声は自分の思いと反して、たどたどしい。
ゆっくりとしか、話すことができないのだ。
ずっと声を出さなかったせいだと思う。
それでも、律花は嬉しそうにしてくれる。
ぶんぶんと首を横に振り、希愛の頬を撫でた。
「…謝らなくていいよ。希愛がこうしてあの頃のように喋れるんだから」
「……うん」
声が出なくてもどかしかった。
伝えたいことがうまく伝わらない。
いつしか伝えたいと思わなくなった。