Sion
だが、それが変わったのは出会ってから数日後だった。
その日の放課後、湖季は日直で先生から頼まれ事をされていた。
それを終えたのは、夕暮れどき。
早く帰ろうとランドセルを背負い、廊下を小走りでいると―――
綺麗なピアノのメロディーが廊下に響いていた。
その音に耳を澄ます。
誰が弾いているかはわからないが、音楽の先生でないことは分かった。
子どもの頃の湖季が聞いても、凄く上手いと感じた。
惹かれるように湖季は音楽室へと身を翻した。
音楽室を覗いてみると、そこには那由汰がいた。
那由汰の指から出る音は心に染み込んでいくようだった。
『…誰』
と、那由汰は湖季の存在に気づく。
視線があった瞬間、湖季の心臓は跳ね上がった。
『あ、ごめ……聞こえてきて…あの…』
何を言おうか、しどろもどろになる。
那由汰はそんな湖季を咎めるとかはしなかった。
『…入れば?』
と、すっと椅子をピアノの近くに寄せる。