Sion




湖季は話していて、くすりと笑う。
昔のことを思い出すと、自然に笑みが零れてしまう。




「あいつは昔から変わってないよ」




誰に対してもあの調子
親しいと呼べる友達はほんの一握りしかいない。




それでも那由汰は凛としている。
元々、大勢とつるむのは好きじゃないみたいだ。




だからだろう。
那由汰の弾くピアノの音は澄んでいるように綺麗で、何も混じっていない。




「奏くんは…小さい頃から…ピアノを弾いていたんですね…」




「3、4歳の頃から弾き始めたらしいよ。詳しいことは聞いてないけど」




「…湖季でも知らないこと、あるんだ」




と、律花は驚いた様子を見せる。
湖季はふっと笑った。




「いっぱいあるよ」




湖季が知っている那由汰は編入してきた頃からだ。
それより以前のことは詳しく知らない。




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