Sion




少し前の4月
湖季は那由汰に希愛のことを聞いた。




『花澤さん、気になるのか?』




『……直球』




遠まわしに聞くなんて面倒だった。
それに、那由汰は気づいてくれないだろう。




こんなふうに直球に聞いたほうが分かってくれるし、答えてくれる。
長い付き合いだから分かることだ。




那由汰は答えようとしない。
そんな那由汰に湖季は続けた。




『花澤さん、他の子と違うな。…気に入ったのか?』




『……まぁ…うん』




湖季はフッと笑う。
那由汰の横顔が少し恥ずかしそうにしている気がした。




『…あの子とまだ続いてるのか?』




『あの子』と言った瞬間、那由汰がぴくっと動く。
少し陰った表情が浮かんだ気がした。




『…俺じゃないと嫌って』




『あの子がお前を必要としているのは自分の為、だろ?お前自身を深く想っているんじゃない』




『…分かってる、そんなこと。でも…まだダメなんだ』




『あの子』の存在が少なくとも那由汰を傷つけていることを湖季は知っている。
口数が少ないから、『あの子』は本当の那由汰の心に気づいていない。




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