Sion
弓弦が来たことに気づいた優愛は歌声を止める。
ヘッドホンを外し、微笑みを浮かべながら弓弦と話していた。
そんな二人を見て、那由汰はぽつりと呟く。
「…重ねてるのか、全然違うのに」
「……那由汰?」
湖季は那由汰の名を呼ぶ。
那由汰はなんでもないと首を横に振った。
「湖季、つまんなくなかった?」
と、話をかける。
那由汰の呟きを気にしながらも、湖季は答えた。
「いや…全然。何か、嬉しかったよ」
と笑うと、那由汰は首を傾げる。
不思議そうにきょとんと目を丸めた。
「那由汰はこんなことをしてたんだって…知れてさ」
「…まぁ、今日は俺も初めてのことだけど」
「作曲の仕事してるなんて初めて知った。ピアノ弾いてるのもそうなのか?」
と、湖季は尋ねた。
那由汰のことを聞くには、この時しかないと思った。