Sion
体育館で律花が声を潜めて、話しかけてくる。
「希愛の隣の席の人、結局来なかったね」
それを聞き、湖季は振り返る。
「多分、教室じゃなくて直接体育館に来たんだと思う。あいつ、挨拶しなきゃいけないからさ」
湖季の言葉を聞き、律花は「え!?」と驚きの声を上げる。
「挨拶って…生徒代表の?頭、賢いの?」
「賢い、賢い。あっでも…1位ではなかったみたいだな。1位の人がなんかの理由で辞退したから、回ってきたって話してた」
それを聞いて、希愛は申し訳なく感じた。
そんな希愛を見て、律花はあっと声を漏らす。
「それ…希愛のことだよ。喋ることができなかったから、辞退して…」
「えっ?ってことは、花澤さんも頭いいんだ。よかった!俺、いつもそいつに教えてもらってたんだけどさ、あいつ…分かりづらいんだよな」
それは教えて欲しいということだろうか、と希愛は考える。
コクりと頷き、笑みを見せた。
『私でよかったら教えます。私も分かりづらいかもしれないけど…』
希愛がそう言うと、湖季はぶんぶんと首を横に振った。