Sion
那由汰は無意識のうちに仕事場で出してしまっているんだろう。
湖季は優愛に気づかれないようにため息をついた。
優愛は顔を上げる。
「別にいいの。そもそもこの付き合いなんて…デビューまでの約束だから。
でも、那由汰の頭にあたしと違うことがあるなら…せめてデビューするまで考えないで欲しい」
「…無意識なんだよ、あいつは。そういう奴だから」
「だから、湖季から言ってほしい。今、大事な時期なの。あたしの…歌手の夢がかかってる」
そう言っている優愛の瞳はとても強かった。
優愛の言っている意味は分かる。
湖季は静かに頷いた。
「言っては…おくよ。聞いてくれるとは限らないと思うけど?」
「それでもいい。那由汰が自覚してくれればいいから」
と、優愛はやっとコーヒーに口を付ける。
話したかったことはこれだけのようだ。