Sion
那由汰が好きになるのは自分の音に関することなのだ。
特別な『音』を持つ者を気に入り、好きになる。
ただ、那由汰は優愛が好きというわけではない。
優愛が持つ音に惹かれ、その音を輝かせるためにそばにいるだけ。
那由汰の厄介なところは自覚がないことだ。
湖季は不安そうな顔を浮かばせる希愛を見た。
那由汰は言っていた。
『希愛は…今までと違うんだ』と。
本当にそうだとしたら、このままじゃいけない。
二人とも踏み出せていないんだ。
想いを伝えるだけでは進めない。
これは簡単な問題ではないのだ。
那由汰は…優愛のデビューまで今の関係を続けるだろう。
それが二人の交わした約束だから。
だが、実際はどうなるのか分からない。
世の中はうまくいかないことだらけだ。
自分の思い通りになんて進まない。