Sion
それに気づいていながら、優愛はそれを那由汰に言うことができなかった。
この時間とこの距離が居心地がいいからなのかもしれない。
かと言って、特別な感情はない。
優愛には想っている人がいる。
その人はとても鈍感だ。
才能がある人はどこか一部が欠けている。
それは那由汰も優愛自身もそうだと思う。
その人に想いを伝えるつもりはない。
その人の瞳に映るのは自分ではない。
あきらめない。好きな想いは譲れない。
何があっても奪っていく。
そのつもりだった。
なのに、そう出来ないのだ。
実際は自分の心に反してしまう。
優愛はどうすればいいかわからないでいる。
那由汰とのこの関係。そして、自分が好きなはずのその人のことを…
優愛は那由汰の隣に腰掛ける。
書きかけの文字が並んだルーズリーフを手に取った。