Sion
優愛はため息をつく。
那由汰は気づいていないのだ、この曲が誰を思って書いたのか。
優愛でさえ、誰を思って書いたのかなんとなく気づいているのに。
湖季にも心当たりがあったようだ。
優愛には言わなかったが、誰だかなんとなくわかる。
優愛の手にあるルーズリーフに書かれたメロディーはとても優しい感じがある。
健気で消えそうなほど儚くて。
そんな儚さをぎゅっと抱きしめて守りたい。
…そんな曲。
優愛じゃない誰かを思って書いていることがバレバレだ。
優愛は微笑んだ。
それが那由汰の良さでもあると思う。
周りに飲まれない。
自分を持っている人だから。