Sion




那由汰に会ったとき、思った。
この人でよかったと。傍にいるほど感じる。




那由汰は才能があって、優愛とは違うのだと。
この歌声を才能だと言うけど、才能だけではうまくいかない。




それは那由汰だって同じだと思う。
那由汰は小さい頃からの積み重ねがある。




だが、優愛にはないのだ。
ある日突然決意して、ある日突然オーディションを受けた。




何もかも突然で、唐突で、積み重ねなんてなかった。
だから、那由汰との三年があったのだ。
あれがなければ、今のようになれなかった。




自信しかなかったあの頃
でも、自信だけじゃ無理なことを痛感させられた。




弓弦との出会いは偶然でこの時間も偶然からできたもので…。
本当になかったものだと思ったら、感謝しかなかった。




「那由汰には…とても感謝してる。だから…この時間はとても大切。
那由汰は私のことを仕事としてしか見ていないけど…私は多分、違うから」




「……無理だよ」




那由汰の本音が小さく聞こえてくる。
その言葉に微笑んだ。




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