Sion
普段見る那由汰とはどこか違う。
「奏…くん…」
「強がりだって分かってる。なのに…関係が終わったことに少なからずホッとしてる自分がいる。…最低だよ」
恋はどうしてこんなにももどかしいんだろう。
どうしてみんなが幸せになることはできないんだろう。
幸せになる一方で誰かが傷ついてる。
「最低…じゃない…です。奏くんは…とても…優しいです…」
那由汰の優しさを希愛はちゃんと感じている。
優愛に対して何も言えなかったのは、傷つけてしまう気がしたから。
分かっている。分かっているから…
自分を責めないで欲しい…と希愛は思った。
少し小さく丸まった背中を後ろからぎゅっと抱きしめた。
「…奏…くん、好き…です。だから…悲しそうな顔をしないで…」
那由汰の優しさが好きだった。
那由汰の笑みが好きだった。