Sion
やっぱり母親には敵わない。
『さて』と愛子は両手を合わす。
「お父さんももうすぐ帰ってくることですし、用意しましょう。爽理くん、手伝ってくれるかしら?」
「…うん」
爽理は理緒と握っていた手を離す。
愛子の背中を追いかけるように走っていった。
そんな爽理の後ろ姿を見て、理緒はふっと微笑んだ。
「愛子さんには敵わないな…」
「…私も理緒さんと家族になれたらいいなって思ってる。前にも言ったけど、頼っていいんだよ?
理緒さんの疲れた顔なんて私たちも…爽理くんも見たくないんだから」
「…ありがとう」
理緒は穏やかに微笑んだ。
「分かってるの。爽理にとっては…このほうがいいんだって。いつも…淋しい思いをさせてた。
私の親は頼れないし、頼ったら…どうなるかわかってたから。私はそれが嫌だった。爽より…大切に思える人なんていないから」
理緒はずっと爽を想っていた。
ここにいなくても、ずっと爽のことを…。