Sion
理緒と爽理の荷物を運ぶ前、那由汰は愛子に挨拶をした。
『希愛さんとお付き合いをしています、奏 那由汰と言います』
本当はこんな時に言わなくても良かった。
なんだか恥ずかしくなって、希愛は下を俯いていた。
嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ち
二つが混ざり合ってどんな反応をすればいいか分からなかった。
すると、頭上からクスリと笑う声が聞こえてきた。
ゆっくり顔を上げると、どこか嬉しそうな愛子の顔があった。
『那由汰さんね。これが終わったらゆっくり話をしたいわ。…ご飯を食べながら…ね』
『…はい、もちろんです』
二人の会話がまだ耳に残っている。
彼氏を母親に紹介するってあんなにも恥ずかしいものなんだ。
初めての体験に顔が赤くなっていた。
そんな希愛の耳元で愛子は囁いたのだ。
『素敵な子ね』と。
それが素直に嬉しかった。
まるで認めてもらったかのように。