Sion
しばらく歩いていると、那由汰の足が止まる。
希愛は不思議に思い、那由汰の顔を見上げた。
那由汰は真っ直ぐ何かを見ている。
そして驚いたように、何かを言おうとして唇を動かした。
でもそれは声にならなかった。
「…那由汰?」
希愛が呼んでも返事は返ってこなかった。
希愛は少し眉を寄せ、那由汰の視線の先を見た。
するとそこには小柄な女の人の姿。
家の前にいて、じっと見上げている。
その横顔は少し切なそうで
だけどどこか嬉しそうだった。
ふっと微笑んだ女の人がこちらを向く。
『あ』と小さく声を洩らした。