Sion




女の人は風に靡く短い髪を手で押さえ、笑みを浮かべた。




「時が流れば自然に変わっていくもの」




そう言うと、スッと目を閉じた。




ゆっくり開けた目には少し光が映る。




「なゆは昔のほうがよかった?」




悪戯に女の人は笑う。
その笑みに那由汰が返したのは力の抜けたようなどこかホッとしたような顔だっ
た。




「…どっちも好き。ゆのはゆのだから」




「私も好きだよ、なゆ」




『好き』という言葉を二人は自然に交わす。
それがとても親しげな人なのだと感じさせる。




さっきまで幸せだった気分が一瞬で不安に変わった。
那由汰の制服のシャツをぎゅっと掴む。




その時、那由汰は希愛の存在を思い出したように振り返る。
『ごめん』と小さな声で謝った。




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