Sion




階段を上がり、那由汰は手前の部屋の扉を開ける。




「…どうぞ」




部屋の中は男の子といった感じの部屋だった。
ただ目を惹くグランドピアノが少し浮いているように感じられた。




「大きいピアノ…」




「こっちに引っ越してきたときに貰ったんだ。…お茶入れてくる。紅茶でいい?」




「う、うん」




「…好きに見てていいよ」




そう言って那由汰はぱたりと扉を閉めた。
那由汰が居なくなった部屋で希愛はきょろきょろと部屋の中を見渡した。




本棚には本や漫画ではなく、音楽関係の雑誌や楽譜が並べられている。
ゲーム機もゲームソフトも見当たらない。




那由汰の部屋は音楽でいっぱいだった。
それはまるで小さい頃から埋めつくされたように。




音楽以外何もない。
そんな感じがした。




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