Sion
想いの狭間で
その日の夕方、那由汰の家を出た希愛はゆっくりと歩いていた。
「…花澤さん?」
名を呼ばれ、振り返る。
するとそこには弓音の姿があった。
「弓音さん…」
「ゆの、でいいって言ってるのに」
そう言って笑みを浮かべた。
立ち止まった希愛に弓音はゆっくりと近づく。
「なゆといたの?」
「は、はい…」
弓音といるとなぜか緊張する。
雰囲気がとても大人で。
同じ年には思えない。
近くにいると甘い香りがする。
花のような…とてもいい香り。
「ゆ、ゆのさんは…今帰りですか?」
「ちょっとゆづに届けものしに。途中まで一緒にいていい?」
笑顔で首を傾げる。
希愛はコクりとうなずいた。