Sion




次の瞬間、弓音の表情からは笑顔が消えていた。




「…彼のピアノ、昔から大好きなの。私にとってもすごく大切なもの。
彼は……こんなところで埋もれていていい人ではないわ」




口調から弓音の思いが分かる。
弓音は…那由汰のことを思って、留学を薦めているのだ。




那由汰のピアノを大切にしている。




「ゆのさんは…那由汰のこと、好きなんですか?」




ずっと不安だった言葉を口にする。
どんな答えが返ってくるのかが怖かった。




弓音はふっと微笑む。




「…どうかしら」




はっきりとしない答えが心を揺さぶる。
こうやって面と向かって話すこの時間が凄く長く感じられた。




「…なゆはあなたのことで行くことを躊躇ってる」




え?と希愛は眉を下げる。




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