Sion
出会い
柔らかな風が髪を揺らす。
周りは高い声と低い声の笑い声が耳を刺激する。
すぅすぅと息を細かく吐く。
周りの景色が懐かしくて新鮮に感じられる。
入学式というのは、胸を高鳴らせる。
新しい生活、新しい仲間、そしてときには自分の進むべき道が生まれる。
そういう意味では、花澤 希愛(はなざわ のえ)は楽しみだった。
だが、自分にそんな楽しみができないことも悟っている。
希愛は声が出なかった。
元々そうではなく、ある過去の出来事によってだ。
声を失ってから、希愛は手話もしくは筆談で人と話す。
だが、周りの心に気づいてしまい、距離を置いていた。
中学時代で友と呼べるものは少なかった。
周りと一線を置いていたせいもあっただろう。
でもそれだけではない。
『面倒』と思う人の心が希愛を少なからず傷つけていた。
希愛は人だかりを歩いていく。
長い髪が風に揺らぎ、肌に吸い付くように戻る。
希愛の堂々とした歩みは周りの目線を集めた。
だが、それだけでは無い。