Sion




那由汰が希愛を連れてきた場所は音楽室だった。
本棟から離れた、特別棟の中にある。




特別棟には誰も入らない。
というより、鍵がかかっていて、入れないのだ。




その特別棟の鍵を那由汰は持っていた。
何も不思議に思うことなく、ごく自然に当たり前のように特別棟の鍵を開ける。




音楽室は特別棟の外観と同じく、白を基調とされていた。
中庭といい、この特別棟といい、不思議な雰囲気があって、別世界にいるように感じさせる。




那由汰はふっと希愛の手を離す。
グランドピアノに近寄り、ポーンと鍵盤を指先で押す。




綺麗な音が音楽室に響いた。




それを確認すると、那由汰は頷いて椅子に座る。
すぅっと息を吸うのと同時に、指先が鍵盤を叩く。




長い指先から流れるメロディー
その音は儚く、だけど美しく流れる。




聞いたことがない音が希愛の耳に流れ込む。
だが、何故か心に染み込むようだった。




ピアノを弾いている那由汰はとても楽しそうだった。
長い指先から生み出されるメロディーは才能を感じさせる。





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